「おい、お前には手間がかかったよ。」
そう言いながら口ひげを生やした男がキナスアの口を縛りながら言った。
「しかしあらためて見るとさらにいい女だよなあ。これはいい金になるぞ。」
と、あごひげを生やした男が言った。
キナスアは口と手と足を縛られた。そんな彼女を見て二人の男はいやらしく笑った。
「まあ、どこかに売る前に俺らにも楽しませてもらいましょうや。」
そう言いながら口ひげの男がキナスアの顔をつかんだ。
キナスアは震えていた。そして目には涙が溢れていた。
「怖いか?怖いか?泣いた顔もまたたまらないねえ。」
あごひげの男はさらにいやらしく笑った。
キナスアは一人の男の事を思い出していた。昨日出会った一人の男の事。何故、彼の事を思い出したのかはわからなかったが、ただ、初めて会ったような気がしなかった。
そう、まるで前世から知っていたように。
「キナスアッ!!」
突然ラデスの声が響いた。キナスアと二人の男は声のほうを向いた。そこにはラデスが剣を抜いて構えていた。
キナスアはラデスが来てくれた事に感謝していた。しかし、それと同時に何故ここに現われたのか不思議に思った。
「彼女を放せっ!」
ラデスは叫んだ。今にも盗賊に斬りかかりそうな勢いであった。
二人の男は慌ててキナスアを自分達のもとへ引き寄せた。
「おい、兄ちゃん。いきがるのはいいが見えねえのか?女がどうなってもいいのか?」
口ひげを生やした男は卑怯そうに笑った。
「くっ!」
ラデスは唇をかんだ。
「おい、金目の物置いて消えろ。その剣もだぞ。」
あごひげを生やした男がラデスに命令した。
「……。」
ラデスは懐から財布を出した。どうやらずっしり入っていそうである。
「早くしろ。早くしないと……。」
そう言いながらあごひげを生やした男はキナスアの首もとにナイフを突きつけた。
その時だった。風がキナスアのそばを駈け抜けた。風が駈け抜けた後、キナスアを縛っていた紐は切れ、あごひげを生やした男は倒れた。血を流しながら。
「な……!」
口ひげを生やした男は相棒が倒れた原因がすぐにはわからなかった。
「おい。」
ラデスの声が口ひげの男の後ろから聞こえた。後ろを振り返ると、そこにはラデスが立っていた。しかも、ラデスの周りのオーラが常人の物とは異なっていた。ラデスのオーラは言いようのない恐怖と殺気で構成されていた。そう、まるで魔王のように。
「き、貴様!」
口ひげの男は無謀にもラデスにかかっていった。しかし、数秒後には口ひげの男も倒れた。
「……ラデスさん……。」
キナスアはすっかり様子の変わったラデスに震えながら声をかけた。
その時、ラデスは静かに倒れた。
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