川

「……ここは?」
 ラデスが目を覚ますとキナスアの心配する顔があった。
「よかった。」
 キナスアはそう言いながら泣き崩れそうになった。
「……キナスアさん……。」
 ラデスは周りを見渡してみた。どうやら森の中を流れる川のようだ。
「私……私……。」
 キナスアは泣いていた。
「……キナスアさん。」
 ラデスはキナスアをなぐさめようとした。
「よかった……ラデスさん元に戻った……。」
「元に……?」
 ラデスは記憶の一部が抜けているのに気付いた。
「……あれ……。」
 ラデスは盗賊がナイフをキナスアに突きつけたところまでは覚えているのだが、その先は覚えていなかった。
「……俺は……いったい……?」
「ラデスさん……でもよかった気がついて……。」
 キナスアは涙がなかなかとまらなかった。
「人が……変わったように……怖くなって……。」
「俺が?」
 ラデスは一瞬まさかと思ったが、キナスアの様子からすると本当らしい。
「私……本当……どうしようかと……。」
「キナスアさん……ごめん……心配させて……。」
 ラデスはキナスアをそっと抱き寄せた。
「キナスアさん……。こんな事こういう時に言うのはおかしいと思うけど。」
「ラデスさん?」
「俺は……貴女のことが好きだ。」
「……ラデスさん。」
 キナスアは潤んだ目のままラデスを見つめた。
「何故なんだかわからないけど君と初めて会ったときから……好きなんだ。」
 ラデスはまっすぐな瞳でキナスアを見つめた。その目には先ほどとは違う意味で涙が溢れていた。
「……私もあなたの事が好きです、ラデスさん。さっき襲われた時何故かあなたの顔が浮かんだわ。あなたがきっと助けに来てくれる、そう信じられた。」
 キナスアはその時とびっきりの笑顔を見せた。
「私、あなたと初めて会った時不思議と初めてとは思えなかった。なんだか……前世から知っていたように。」
 ラデスはキナスアの腕をとった。
「でも。」
 キナスアが口を開いた。
「あなたはどこかの貴族なんでしょ。私なんかといたらいろいろと大変なんじゃないの?」
 そういってキナスアはラデスの手から離れた。
「そんな事、関係ないよ。」
 ラデスは再び優しくキナスアの手をとった。
「ただ、俺は……いや、僕は次男だから家督を継ぐことはできないけど、君を幸せにしてみたいんだ。いっしょに来てくれるかな?」
 そう言うとラデスはキナスアを抱き締めた。

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