翌日。
「じゃ、俺ちょっと出かけてくるからな。」
 10時ごろ根田は出版社へ出かけて行った。
「「あのさ。」」
 真志と真亜美は同じに声を出した。
「何だい、真亜美?」
「あ、いや……真志さんから……。」
「う、うん……あのさ、真亜美。」
「何?」
「いや……実は……。」
 真志は何かを言おうとした。が、
「あ、なんでもない。」
「……そ、そう。」
 二人の間を不自然な空気が包んだ。
「ねえ、真志さん……。」
 今度は真亜美が言い出した。
「やっぱり……いつまでも逃げちゃいけないと思うの。」
「……うん。」
「明日……私のお父さんに会って。」

 そのころ。根田は出版社へ向かっていた。と、
「あの。」
 根田は誰かに呼びとめられて振り向くと一人の男性が立っていた。
「あなたはたしか……。」
「はい、真志の父親です。」
「いったいどうしたんですか。」
「実は……真志の事でお話が。」
「お話?でも私これから出版社にいかなきゃならんのでね。その後で良ければ。」
「……はい。でも決して他言しないでくさい。」

「はあ。」
 編集部で根田は思わずため息をついた。
「どうしたんですか?」
 根田の前に座っているデザイナー、関月涼夜が根田に声をかけた。
「ん?ああ、いやなんでもない。」
「そうにはとても見えませんけど。」
「あ、そうか?」
「逢坂君も怒ってましたよ。」
「……まだあいつの原稿終ってないんだよな……。」
 根田はそう言いながら頭を掻いた。と、
「根田さん、お電話が。」
 そう編集者に声をかけられた。
「ん、ああ、スマンな野原。」
 そう言いながら立ちあがって電話へと向かった。
「はい、お電話かわりました根田ですが。」
「もしもし?私笹月浩太郎と申しますが……。」
「は、はい?」
「あの実は娘の真亜美のことについてお話したいことがあるんですが。」
「あの……今仕事の打ち合わせ中でして。」
「では、その打ち合わせが終った後にでも。」
「それがその後にもちょっと約束が……。」
「ではその後でも。」
「は、はあ。ところで要点だけ教えてもらえますかね?こちらにも心の準備がございましてね。」
「ええ……今根田さんの家におられると聞いたんですが。そのことで……。」
 そこで電話は切れた。
 根田は関月の元へと戻ってきた。そしてため息をつきな がら腰かけた。
「なんだったんですか?」
「ん?」
「かなり疲れちゃってますよ。」
「え?」
「完全に顔に出てます。」
「そうか……。」
「根田さん、根田さん。」
 再び野原鈴卯が声をかけてきた。
「ん?今度は何だ?」
 根田は野原の方を向かずに返事をした。
「逢坂さんが……。」
「え?」
 根田が野原の方を向くと逢坂が立っているのが見えた。 そして、明らかに逢坂の顔は怒っていた。

「はあ……。」
 出版社のビルを関月とともに出たところで根田はため息をついた。
「またついてますよ、根田さん。」
「ん?」
「ため息。」
「ついてたか?」
「完全に疲れてますね、無意識だなんて。鈴卯ちゃんも心配してたわよ。」
「え?」
「根田さんが電話に出ている時に話してたんですけど悩み事でもあるのかなって。」
「……悩み事と言うより厄介事だがな。まったく……ん?」
 根田がふと関月のほうを向くと彼女は何かを見つけた目線になっていた。
「どうした?」
「根田さん、あれ……。」
 関月が示した方を見ると真志の父親が立っていた。
「……待ってたのか。」
「根田さん、とりあえず……仕事は締め切りを守ってくださいね。では……。」
 そう言うと関月は気を利かせたのかとっとと歩いてどこかへ行ってしまった。


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