翌日、ジェイはウネクトル城に呼び出された。
「失礼する。」
「おお、よく来てくれた。」
 エダンダは玉座の上に座っていた。
「いったい何のようだ?そんな大層なところに座って。」
「いや、ここって座り心地いいな、と。」
「ふむ。それで?」
「いや、おまえを呼んだのは他でもない。」
 エダンダの声のトーンが落ちた。
「他の国にはもう知れ渡っているだろうな。」
「革命がか?」
「ああ。」
 エダンダはゆっくりとうなずいた。
「間違いはないだろう。革命が起こる前からそんな噂は流れていたからな。」
「だとすると・・・・・・他の国は間違いなく攻め込んでくるだろうな。」
「・・・・・・。」
「そうなってまたどこかに支配されたんじゃ水の泡だ。どうしたらいい?」
「一応軍備は残っているからな。戦えないことはないだろう。」
「一対一ならな。」
「ん?どういう事だ?」
「相手は軍隊だぞ。戦力なら互角でも戦術で負けたら意味がない。」
「なるほど。」
「そこでだ、軍隊の新しい指揮官をお前にやってもらいたいんだが、引き受けてくれるな。」
「何?」
 ジェイの顔が曇った。
「何故俺なんだ?」
「一番信頼できるやつがお前なんだよ。知ってのとおり革命軍の指導者は俺も含めて市民階級ばっかりでな、戦闘の専門家がいないんだ。」
「でも革命は成功しただろ?」
「あれは内部から崩していったからな。お前をはじめとする兵士たちが活躍してくれたおかげだ。でもなジェイ。普通の戦闘は俺らじゃ指示できない。俺らに味方してくれた兵士たちはどちらかというと下の役職のやつらがほとんどで指令塔になれる人間はほとんどいない。お前を除いてな。」
「・・・・・・ちょっと考えさせてくれるか。」
「まあいいだろう。急に言われても困るだろうし。そのかわり明日の昼までには返事を聞かせてくれ。」

 その夜。
「はあ。」
「どうしたの、ため息なんてついて。」
 この日はジェイの実家に二人はいた。
「ちょっと相談されてね。」
「何を?」
「ああ・・・・・・。」
 ジェイはエダンダに言われた事をミリゥに話した。
「なるほど。」
「引き受けるのはいいんだが、ね。ちょっと嫌な予感がして。」
「嫌な予感?」
「いや、たいした事じゃないんだけど・・・・・・まあ、とにかく引き受けようと思う。」
「がんばってね。」
 ミリゥはやさしく微笑んだ。
「ちょっとお茶入れてくるね。」
 そう言うとミリゥは台所へと席を立った。
 台所で紅茶を入れているとかすかにではあるが何かのメロディーが聞こえてきた。そのメロディーはどこか懐かしい音色だった。
「何?」
 ミリゥはお茶を持って戻ってきた。
「ん?ああこれ?私の親父の形見なんだ。」
「ふーん。」
「私の親父は腕のいい職人だったんだ。」
 ジェイはオルゴールを見つめている。
「親父が……死ぬ時に残してくれたのってこれだけだったからな。あとはあととりの兄貴のもんだったし。」
「なんて曲なの?」
「お、吟遊詩人の魂が動き始めましたね。」
「いいじゃない教えてよ。」
「親父が作った曲らしいんだけど……詩は作ってないみたいなんだ。」
「じゃあ、私が作ろうか?」
「そりゃいいな、頼むよ。」

 その頃。城の中。地下室にある魔方陣の上にエダンダが座っている。
「明日から……俺は……ついに……。」
 その顔には、もはややさしさは残っていなかった。

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