……おーい!おーい!僕だよ!やっと帰ってきたんだ!君はどこに居るんだい?早く僕に会いに来ておくれよ!おーい!おーい!おーい……。
なんだおめえさん別の所に居たのか。そりゃ運が良かったな。いやなにあっこら辺て国境近いだろ。突然隣の国の奴等が攻め込んできやがってな、あそこのほうは戦場になっちまったんだ。すぐさま王宮直属の兵隊がやってきて隣の国の奴等を追い出してな。ついでに首都まで攻め込んで隣の国を征伐してなあ、わしらの国のもんにしたってわけだ。おめえさんの居たところでも祭りぐらいあっただろう。え?なに?捕まってた?そりゃ悪い事言っちゃったなあ。ん?あっこら辺に住んでた人?さあ……領主は攻め込まれた時にすぐ殺されたって話だが……それ以外はわからんなあ。多分……殺されたか……それとも捕虜として隣の国へ連れて行かれたか……まあ行方知れずという事だな。ん?おい?どこへ行くんだ?おーい!おーい!戻ってこーい!
え?捕虜だったものか?さあ……私はわからんが……ただそんなものは居なかったと思うが……。ん?知り合いが居た?そう言われてもなあ。攻め込んだ時にはそういう者は居なかったからなあ。多分……死んでしまったんじゃあ……。その知り合いと言うのは誰なんだ?ん?何処行った?消えてしまったなあ……。
いんやここらにはそんな奴は居ないな。ん?金貰ったって知らないものは知らないんだよ。悪いな、兄ちゃん。
いえ、そのような方は来られてはおりませんが……。は?これはこれはありがとうございます。あ、そうそう東の村でそのような方を見かけたって言う話ですがね。
いや。見てないがな、そんな奴は。お前、騙されたんじゃないのか?
……あ、こいつです。この金を私に渡したのは。だから盗んだのはこの男です!こいつを……こいつを早く捕まえてください!さあ早く!
くそ!俺は盗んでなんかいない。あいつが……あいつが俺に罪をなすりつけたんだ!俺じゃない!……。そうか……お前ら皆俺のことが嫌いなんだな?俺に盗賊になって欲しいんだな?……わかったよ。なればいいんだろ?なればよ!なってやるよ!
衛兵からなんとか逃げられた片目の男はこの日から盗賊となった。
……その日は雷が鳴る豪雨だった……。
「……うわっ!」
俺はベッドから飛び起きた。夢の内容は覚えてないが、どうやらまた昔の夢だったらしい。また何か嫌な感じが残っている。
「……くそっ。何なんだ。」
俺は思わずそこいらにあった何かを蹴り飛ばした。
「……今……朝なのか……?」
俺は何気なく窓の外を見ようとした。カーテンが締まっているので外の様子はわからないが光が漏れているところを見ると朝なのだろう。だとすると……。
「ヤバイな、すぐ出ないと。」
俺は慌ててベッドから飛び起きると部屋を出て外に出ようとした。すると、扉を開けた途端何かにぶつかった。
「痛て……。何だ……?」
俺はそう呟きながらその何かを見た。そこにはまた別のシスターがいた。俺は心の中でこんな時間に起きた事を悔やんだ。また厄介な事になったな……。そう思いながら話しかけることにした。
「あ……あの……。」
しかし俺は次に何か言う事は出来なかった。勝手に泊まったとも言えないし、かといって別のシスターに泊めてもらったと言えば今度はそのシスターがいないことに気付いて大騒ぎになっちまう。
そんな事を考えていると、
「あ……昨日お泊りになられた方ですか……?」
そいつはそう言いながら俺に微笑んだ。
……?怪しまないのか……?それならいいのだが……何か……はっきりとしねえ。いくら人がいいからって……そんな……。
俺がそんな事を考えていると、
「朝ご飯まだなんでしょう?いかがですか?」
俺はその申し出を受ける事にした。
……?やっぱりはっきりしない。怪しまないのかって事だけじゃない。何か他にあるはずなんだ。……?初めてこいつに会ったときからなんか変なんだ。何か……そう何か……?
俺はそう考えながらシスターの後ろをついてった。
……?だめだ。はっきりしない。このところそんなんばっかりだ。俺はそう思いながら台所までついていった……。
「どうぞ。」
シスターはそう言いながら料理を運んできた。
しかしどうしよう。こいつもやっちまうか。それともこのまま逃げるか。困ったな。だいたいなんで泊まったって事知ってんだ。よくあることなのか?いや、昨日誰か人が来るのは久しぶりって言ってたな。じゃあなんで……?
俺は考えながら食べてたのでよく味はわからなかった。
「おかわりいかがです?」
「うわっ。」
俺は思わず声をあげた。いつのまにかシスターが俺の顔の近くに来ていやがった。驚くじゃねえか。顔の前にいきなりこられたら驚くじゃねえか。
「あ、いや大丈夫です。」
俺は動揺を隠そうとした。……?あれ。この感じ……どこかで……。???。……。えーと、何だ?前……何か……?……ダメだ。やっぱり思い出せない。本当にダメだ。
「あの……本当に大丈夫ですか?」
おっといかん。動揺を見破られそうだ。うーむ。もういい。考えるのはヤメだ。こうなりゃヤケだ。こいつもヤッてやる。
俺はそう思うとさっそく行動に移そうと―いや、ここじゃ誰か来るかもしれない。どこか人目に付かない所にでも連れ込まないとダメだな。えーと……。
「あのーひとつお尋ねしたいのですが。ここって何人ぐらい人がおられるんですか?」
俺はとりあえずさしさわりの無い質問をした。
「いえ、前は何人かいたのですが今は理由があって私一人です。」
……?何?一人?そんなわけないよな。昨日俺は二人に会ってるのに。……まてよ。ひょっとしたらこいつ二人死んだって事に気付いてるんじゃねえか?そうか。だから今は一人と言ったのか?だとしたら俺があの二人を殺したって事にも気付いてるんじゃ……。
もしそうだとしたらまずいぞ。もうあれこれ考えてる余裕は無い。どうせここにはこいつしか居ないってんなら場所なんか気にせずこの場で今すぐ……。
「あの?どうか……きゃっ。」
俺はいきなり押し倒した。昨日と同じパターンだ。……?あれ?同じパターン?なんだか……こう……ひっかかるな。あーダメだ。これこそ昨日と同じパターンじゃないか。ええい、もういい。
女はどうにか抜け出そうとしてもがいている。顔は恐怖に歪んでいた。俺はかまわず事に及ぶことにした……。
「……ふう。」
俺は事をすますとまた地下室にぶち込んどく事にした。
「三人目、か。」
俺はそんな独り言を呟くと急いで地下室に入れておくことにした。また誰か来ないうちにオサラバしなければ。
俺は昨日と同じように地下室のドアを開け中に死体を放り込んだ。死体が床に落ちる音がした。昨日と全く同じだ。
……?なんか変だな。昔の事じゃなく今だ。今の何かが変なんだ。でも……昨日と同じだったよな。特に変わったことも無いし。……まあいい。どうせここにはもう二度と来ないんだ。どうなろうが知ったこっちゃない。
「じゃあな。いい思いさせてくれてありがとよっ。」
俺はそう呟くと修道院を後にした。とっととこっから離れよう。また昨日のように誰かに会ったら面倒だ。
俺は歩きながらちょっとした考え事をしていた。
この所続く思い出せない昔の事。修道院であった三人のシスター。……そして最後に残った違和感。
昔……か。思い出せないが多分夢でも見てたんだろうな。偉くなるとか、金持ちになるとか、幸せな結婚をするとか……?ん?何だ?今なんか引っかかったぞ。結婚……?いや、恋人か?……ダメだ。あとちょっとなんだけどな。あーもういい。どうせ思い出せないんだ。考えるだけムダムダ。やめやめ。
えーと、最初のシスター、抱き心地よかったな。結構いい体してたし。ただ残念なのは顔を見てないんだよな。暗闇だったし。……やっぱ見ときゃよかったかな。引き返そうか……いや、やめとこう。今から行って誰かに会っても面倒だしな。それに不細工だったらやっぱり嫌だしな。二人目は体もよかったし顔もきれいだった。本当に。最後のは……?あれ?……ん?顔が……思いだせんな。あれ?二人目の顔はどんな顔だっけ?俺の好みのべっぴんだったのは覚えてるんだが。……?そういや最後の奴の顔も思い出せないぞ。俺はいつからこんなに物覚え悪くなったんだ。あーあ嫌んなっちゃうなあ。
違和感……ダメださっぱりわからん。ちょっとこの所いかんな。スランプか?俺もヤキがまわったのか?いやまだそんな歳じゃないだろう。
「……。」
俺は黙りながら森の奥へと歩いていった。
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